オンチェーン分析とは
オンチェーン分析は、ブロックチェーン上に記録された取引データを分析し、市場の動向や投資家行動を把握する手法です。この記事では、オンチェーン分析の基礎から実践的な活用法まで詳しく解説します。
TradingView によるチャート (BINANCE:BTCUSDT)
上記はBINANCE:BTCUSDTのリアルタイムチャートです。価格動向の参考にしてください。
上記チャートでは、ビットコインの価格と出来高指 標を表示しています。オンチェーンデータと価格の関係性を理解しながら分析手法を学んでいきましょう。
オンチェーン分析の基本概念
従来分析との違い
テクニカル分析との比較
テクニカル分析:
- 価格・出来高データのみ
- 短期から中期の予測
- チャートパターン重視
- 市場心理の間接的把握
オンチェーン分析:
- ブロックチェーン全データ活用
- 中長期トレンド把握
- 実際の資金移動追跡
- 投資家行動の直接観察
ファンダメンタル分析との比較
ファンダメンタル分析:
- 企業業績・経済指標
- 定性的要素重視
- 将来価値の理論計算
- 情報の非対称性存在
オンチェーン分析:
- ネットワーク使用実績
- 定量的データ中心
- 現在価値の客観評価
- 透明性・即時性
オンチェーンデータの特徴
データの透明性
利点:
- 全取引が公開記録
- 改ざん不可能
- リアルタイム更新
- グローバル統一基準
制約:
- 匿名性による限界
- データ解釈の複雑さ
- プライベートキー不明
- 取引所内取引の不透明性
主要なオンチェーン指標
ネットワーク使用指標
アクティブアドレス数
定義: 一定期間内に送金・受金したアドレス数
分析ポイント:
- DAU（日次）: 短期ネットワーク活動
- WAU（週次）: 中期トレンド把握
- MAU（月次）: 長期成長性評価
価格との関係:
- 高相関（特に長期）
- 先行指標として機能
- ネットワーク価値の基礎
取引量（On-chain Volume）
測定方法:
- 総取引量（USD建て）
- 調整済み取引量（大口除外）
- 実経済取引量（投機除外）
分析視点:
- 実需の把握
- 投機と実用の分離
- 経済活動の量的測定
価格への影響:
- 高取引量 = 高い経済価値
- 持続的増加 = 価格上昇要因
- 急減 = 価格調整リスク
ハッシュレート（PoWの場合）
ビットコインハッシュレート:
- ネットワークセキュリティ指標
- マイナー信頼度の測定
- 長期投資家心理の反映
価格との関係:
- 長期的な正相関
- セキュリティプレミアム
- マイナー損益分岐点
ホルダー行動指標
HODL指標
Coin Days Destroyed (CDD):
- 保有期間 × 移動量
- 長期保有者の動向把握
- 市場への供給圧力測定
分析:
- 低CDD = HODLing継続
- 高CDD = 長期保有者売却
- 急増 = 価格変動の前兆
Long-term Holder (LTH) Supply
定義: 155日以上保有されているコイン
特徴:
- 価格に鈍感な投資家
- 長期的価値への信念
- 市場の安定要因
分析:
- 増加トレンド = 強気市場
- 減少トレンド = 利確圧力
- 急減 = 分配期の兆候
Short-term Holder (STH) Supply
定義: 155日未満保有のコイン
特徴:
- 価格敏感な投資家
- 短期利益追求
- 市場ボラティリティ要因
分析:
- 急増 = 投機的過熱
- 急減 = パニック売り
- 安定 = 健全な市場
価格・価値指標
MVRV Ratio
計算式:
MVRV = Market Cap ÷ Realized Cap
Realized Cap = Σ(各コインの最終移動時価格)
解釈:
- MVRV > 3.5: 過大評価（売りゾーン）
- MVRV < 1.0: 過小評価（買いゾーン）
- MVRV 1.0-3.5: 適正価格帯
NVT Ratio（Network Value to Transactions）
計算式:
NVT = Market Cap ÷ Daily Transaction Volume
意味:
- 株式のPER（株価収益率）に相当
- ネットワーク使用量に対する価格評価
- 過大・過小評価の判定
目安:
- ビットコイン: 50-100が適正
- 150以上: 過大評価
- 20以下: 過小評価
Realized Price
定義: Realized Cap ÷ 流通量
特徴:
- 平均取得価格の近似値
- 強力なサポートライン
- 長期投資家の損益分岐点
活用:
- 価格がRealized Priceを下回る = 割安
- 大幅乖離時 = 投資機会
- サポートライン機能
取引所フロー分析
Exchange Inflow/Outflow
取引所流入（Inflow）
意味:
- 売却準備の可能性
- 利確・損切り意図
- 取引活発化の前兆
分析ポイント:
- 大量流入 = 売り圧力増加
- 流入増加率 = 売却確率
- タイミング = 価格影響予測
取引所流出（Outflow）
意味:
- 長期保有意図
- セルフカストディ選択
- 売却圧力減少
分析ポイント:
- 大量流出 = 強気シグナル
- 継続的流出 = 供給減少
- ネット流出 = 価格上昇要因
Net Flow（ネットフロー）
計算: Outflow - Inflow
解釈:
- ポジティブ（流出超過）= 強気
- ネガティブ（流入超過）= 弱気
- トレンド = 中期方向性
応用:
- 価格先行指標
- 反転シグナル検出
- 投資家心理把握
取引所残高分析
Exchange Balance
重要性:
- 即座に売却可能な量
- 市場の潜在売り圧力
- 流動性の源泉
分析:
- 残高減少 = 売 り圧力減少
- 残高増加 = 売り圧力増加
- 急変 = 価格変動の前兆
Percent of Supply on Exchanges
計算: 取引所残高 ÷ 総供給量
歴史的水準:
- 2017年ピーク: 約25%
- 2020年底値: 約10%
- 現在水準: 約12-15%
解釈:
- 高水準 = 売り圧力大
- 低水準 = 供給制約
- 減少トレンド = 強気要因
ステーキング・DeFi分析
ステーキング指標
Staking Ratio
PoSネットワーク分析:
- ステーキング率 = ロックアップ率
- 高ステーキング率 = 供給減少
- 報酬率 = 機会コスト
投資への影響:
- 供給制約による価格上昇
- ステーキング報酬の魅力
- アンロック時の売り圧力
DeFiロック量分析
Total Value Locked (TVL)
プロトコル別TVL:
- 資金の流入・流出動向
- プロトコル人気度測定
- エコシステム成長指標
分析視点:
- TVL増加 = エコシステム成長
- TVL減少 = 資金流出・不安
- シェア変動 = 競争状況
オンチェーン分析ツール
主要分析プラットフォーム
Glassnode
特徴:
- 最も包括的なオンチェーンデータ
- 高度な指標開発
- 機関投資家利用
提供指標:
- ネットワーク指標
- 投資家行動指標
- 価格・価値指標
- デリバティブ指標
料金:
- 基本プラン: $39/月
- プロプラン: $89/月
- エンタープライズ: カスタム
Chainalysis
特徴:
- 取引フロー分析に特化
- コンプライアンス重視
- 法執行機関も利用
強み:
- 詳細な資金追跡
- 取引所・サービス分類
- 不正取引検出
用途:
- 機関投資家デューデリジェンス
- リスク管理
- 規制対応
CryptoQuant
特徴:
- リアルタイム分析
- カスタムアラート
- コミュニティ分析共有
強み:
- 取引所フロー分析
- マイナー分析
- ユーザーフレンドリー
料金:
- 無料プラン: 基本指標
- プロプラン: $39/月
- プレミアム: $99/月
無料ツール活用
Blockchain.info
提供データ:
- 基本ネットワーク統計
- 取引量・アドレス数
- ハッシュレート
- 難易度調整
活用法:
- 基本的なトレンド把握
- 教育・学習用途
- 簡易分析
Coinmetrics.io
無料提供:
- 主要ネットワーク指標
- 基本的な投資家行動指標
- APIアクセス（制限あり）
活用法:
- 複数チェーン比較
- 長期トレンド分析
- データダウンロード
実践的な分析手法
マクロトレンド分析
長期成長性評価
分析期間: 1-5年
重要指標:
- アクティブアドレス成長率
- 取引量成長率
- ネットワーク価値成長
判定基準:
- 年成長率20%以上: 健全な成長
- 年成長率10-20%: 安定成長
- 年成長率10%以下: 成熟・衰退
ネットワーク効果測定
メトカーフの法則応用:
ネットワーク価値 ∝ (ユーザー数)²
実践:
- アクティブアドレス数の2乗と価格の相関
- 理論価格と実際価格の乖離
- 成長段階の判定
短期シグナル検出
売買圧力分析
買い圧力シグナル:
- 取引所からの大量流出
- Long-term Holder供給増加
- ステーキング率上昇
売り圧力シグナル:
- 取引所への大量流入
- Short-term Holder供給増加
- 古いコインの大量移動（CDD急増）
価格転換点予測
底値シグナル:
- MVRV < 1.0継続
- Realized Priceでのサポート
- パニック売り後の流出開始
天井シグナル:
- MVRV > 3.5到達
- 長期保有者の大量売却
- 取引所流入急増
投資戦略への応用
長期投資戦略
バリュー投資アプローチ
買い条件:
- MVRV < 1.5（割安）
- NVT < 適正値（使用量対比安い）
- 長期成長トレンド維持
保有条件:
- ファンダメンタル悪化なし
- ネットワーク成長継続
- 競合優位性維持
売り条件:
- MVRV > 3.5（割高）
- 成長鈍化兆候
- 競合台頭
タクティカル投資戦略
モメンタム戦略
買いシグナル:
- アクティブアドレス増加加速
- 取引所流出加速
- ネットワーク使用量急増
エグジット:
- モメンタム鈍化
- 流入転換
- 過熱シグナル出現
平均回帰戦略
逆張り買い:
- 過度な悲観時（MVRV極低値）
- パニック売り後
- サポートでの反発
逆張り売り:
- 過度な楽観時（MVRV極高値）
- 大量利確発生時
- レジスタンスでの反落
リスク管理とオンチェーン分析
ポートフォリオリスク評価
集中リスク分析
大口保有者リスク:
- 上位アドレス保有比率
- クジラ（大口）の動向監視
- 分散度指標（Gini coefficient）
対策:
- 分散度の高い銘柄選択
- 大口動向の継続監視
- 流動性確保
流動性リスク評価
指標:
- 取引所残高
- 日次取引量
- ビッド・アスクスプレッド
管理:
- 十分な流動性確認
- 大口取引の分割実行
- 複数取引所利用
シストミックリスク監視
ネットワークリスク
監視項目:
- ハッシュレート集中度
- マイニングプール分散
- ノード地理的分散
対策:
- 分散性の高いネットワーク選択
- 技術リスクの定期評価
- 代替チェーンの検討
オンチェーン分析の限界
データ解釈の課題
プライバシー制約
課題:
- 個人・機関の区別困難
- 意図の推測に依存
- 取引所内取引の不透明
対策:
- 統計的アプローチ
- 複数指標の組み合わせ
- 外部情報との照合
時系列分析の難しさ
課題:
- ネットワーク成長による指標変化
- 市場成熟度の影響
- 外部要因の影響
対策:
- 正規化・調整手法
- 成長段階別分析
- マクロ要因考慮
予測精度の限界
市場効率性の向上
変化:
- オンチェーン分析の普及
- アルゴリズム取引増加
- 情報格差縮小
影響:
- 先行性の低下
- シグナルの短命化
- 新指標開発の必要性
まとめ：オンチェーン分析の実践活用
成功のポイント
- 複数指標の統合: 単一指標に依存しない総合判断
- 長期視点の重視: 短期ノイズに惑わされない分析
- 継続的な学 習: 新指標・手法の習得
- リスク管理: 分析の限界を理解した投資判断
実践的なアプローチ
初心者段階
習得指標:
- アクティブアドレス
- 取引所フロー
- MVRV
- NVT
活用法:
- 基本的なトレンド把握
- 明確なシグナル重視
- 他分析との組み合わせ
中級者段階
習得指標:
- HODLer行動指標
- 価格・価値指標群
- 派生指標の理解
活用法:
- 複合的判断
- タイミング精度向上
- リスク管理強化
上級者段階
習得指標:
- 全指標の深い理解
- 独自指標の開発
- プログラミング活用
活用法:
- アルゴリズム化
- 高頻度分析
- 機関レベル分析
オンチェーン分析は、暗号資産投資において強力な武器となります。ブロックチェーンの透明性を活用し、従来の分析手法では得られない深い洞察を獲得しましょう。継続的な学習と実践により、市場での優位性を築くことができます。投資は自己責任で行い、余剰資金での取引を心がけましょう。
